Nd-Fe-BのB-rich相はNdとFeのサブシステムが相互に入り込んでできているコンポジット結晶であり、さらにそれぞれのサブシステムが変調を起こしていると考えられる。Nd-Fe-Bの微結晶を取り出し4軸回折計により、c軸に沿った測定を行った。また、構造の周期が熱処理条件によりどの様に依存しているかを調べ、熱処理条件と構造の周期との明白な相関はないことがわかった。さらにNdとFeのサブシステムの周期を調べたところ、Feのサブシステムの周期は試料によらず、ほぼ一定なのに対し、Ndの周期は試料により異なり、構造の周期はNdとFeのサブシステムの差によって生じており、二つのサブシステムが相関をもって変調を起こしていることが明かとなった。変調構造についての構造因子について、ベッセル関数を用いた取扱を行い、二つのサブシステムからの干渉項について考察した。この結果、二つのサブシステムが互いに独立に変調を起こしている場合には干渉項は値を持たず、互いに相関をもって変調を起こしている場合には干渉項が値を持つ事がわかった。結晶構造については、これまでの報告では例えばNdのサブシステムを10倍し、Feを9倍してひとつの単位胞をつくるといった、いわゆるコメンシュレイトな構造を仮定して構造解析が行われている。ベッセル関数を用いた取扱により計算した構造因子と測定した値を比較し、インコメンシュレイトな構造も含めNd-Fe-Bコンポジット結晶の基本的な構造の理解は成された。さらにまた、2つのサブシステムの入り込み方について高エネルギー物理学研究所の放射光施設において平行性のよいX線を用い、異常分散を利用し、c軸に沿ったより詳しい測定を行い、NdとFeのサブシステムの寄与をそれぞれ分離することを試みた。その結果、Ndのサブシステムの変調の周期とFeの変調の周期は正確に一致するのではなく、ごくわずかにずれていることが明らかになった。
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