本年度においては、対象天然色素として赤キャベツの主色素ルプロブラシン、紅花の色素カ-サモンとサフロ-ルイエロ-、紫根の主色素シコニン、西洋茜の色素類アントラキノンの誘導体類を選んで、各種の検討を行なった。まず、これらをそれぞれの天然染料から抽出、精製したが、その他にバイオ技術により作ら出されたもの或いはモデル化合物として合成されたものも使用して、絹ならびに木綿に染着せしめた後、各種の金属イオンによって媒染した。次に、それらの処理をおこなう際にクエン酸、タンニン酸他の紫外線吸収効果を有する天然有機酸類を添加して、これらによる日光堅牢度改善効果を測定すると共に、色調やそれらに対する媒染金属イオンの影響、洗濯或いは摩擦堅牢度との関連などについての考察を行なった。 現在迄に得られた結果によれば、繊維に吸着した天然色素の濃度と金属イオンの種類、天然有機酸の種類などが大きな因子となるようであった。それらの中では、分散染色法の応用による染着性の改善も効果をもたらすようであり、これらについては従来の染色法が多数回にわたる染め重ねによって染着濃度を増加せしめていた為、繊維の表面層に色素分子が堆積し紫外線による攻撃を受け易かったが、一回の染色で合成染料と同様に繊維の非晶領域深く迄、色素分子が侵入し得るようになったからではないかと推定されている。また、媒染金属イオンとしてはニッケルイオンや銅イオンが、添加天然有機酸としてはクエン酸が有効であることを見出した。その他、アントラキノンの誘導体類の中では水酸基の数と位置により金属イオンとの配位結合の生成が異なることやバイオ技術によって作り出された色素は異なった効果を有することなどの多くの知見を得ている。
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