研究概要 |
目的:子どもが他者を受容するということは,相手の立場に立って考え,相手の気持を汲むこと,すなわち,相手を思いやることにつながる。この他者受容に至る過程としては,自己受容,すなわち,相手によって自分自身を受容してもらうことから始まる。その典型例は,快感情や不快感情を表出したり,欲求表出による自己主張を大人に受け入れてもらうことにみることができる。この自己受容を基盤として,乳幼児は自己実現していき,これらの過程を経た後,他者受容に赴くものと考える。この仮説を検証することを本研究の目的とした。 研究方法:都内公立保育所に生後2カ月23日から入所した男・女児各1名ずつを対象に,生後3カ月から1歳9カ月まで,毎月1回,快感情・不快感情の表出と保育者の対応を主な観点とした行動観察を行った。さらに,同一年月齢の家庭保育児男・女各1名ずつを対象に加え,快感情と不快感情の表出に対する母親の対応を毎月2回,1年間にわたって行動観察を行った。 結果:養育の環境条件に相違があるため,保育所対象児に対して家庭対象児を対照群として扱うことはできないが,4名の1年間にわたる事例研究から以下のような貴重な結果を得た。 (1)母親と乳児との間に相互主体性が成立するのは,乳児の快感情の表出に対する場合の方が好機となり,乳児が母親の情緒表出を読みとり,母親もまた乳児の情緒表出を読みとるというように,相互の間に情緒の共有が成り立つことが条件となり,それは生後10カ月頃である。 (2)自己受容に関しては,乳児では「喜びを表す情緒表出」よりも「自己主張」に関連する要求表出の方が優先し,それは豊かな「ひとり活動」を実現する基盤となる。たゞし,これらの結果と幼児の思いやりの下位項目との関連については今後の課題である。
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