本研究では鎮静効果及び興奮効果があるといわれている植物性香り物質を中心に、香り物質の心理的効果と生理的反応について調べようとするものである。前年度は、香り物質の心理的な感覚評価及び生理的反応の日内変動について検討し、同じ香り物質であっても、感覚評価及び生理的反応が時間によって異なり日内変動が存在することを明らかにした。 本年度は香り物質の濃度の違いが、心理的な感覚評価及び生理的反応に及ぼす影響について検討した。6人の健康な女子大生を被験者とし、3種類のにおい物質(タイワンヒノキ材精油、オレンジ果皮油、オイゲノール)を用い、吸入濃度を3段階(弱いにおい、楽に感じるにおい、強く感じるにおい)に分けて実験を行った。 感覚評価についてはSD評価データを因子分析した結果、快適感、刺激感、田園感の3因子が抽出された。快適感に関しては、オレンジは3濃度とも快適であると評価されたが、その程度は弱いにおいにおいて最も強かった。またオイゲノールは濃度の増加とともに、直線的に不快感が増加した。このようににおい物質の濃度によって、受ける印象は異なることが分かった。 生理的反応については瞳孔光反射、心電図R-R間隔、R-R間隔変動係数、脳波、血圧を測定し検討した。その結果、オレンジ果皮油の吸入は瞳孔の縮瞳面積及び縮瞳最大加速度を減少させ、副交感神経系優位なリラックス状態を作り出した。オイゲノールは縮瞳最大加速度、心拍数を増加させ、R-R間隔、α波の出現率を減少させ、交感神経系優位なストレス状態を作り出した。このようににおい物質の吸入は生理的応答に有意な変化を及ぼすこと、同じにおい物質においても、そのにおいの変化は濃度によって異なることが分かった。
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