研究概要 |
ゴムやベルトで胴部に固定する着装方式は、生活動作を行う時に胴部に衣服圧を生じさせ、極端な圧迫では弊害につながる恐れがある。フィット性の強い衣服および衣服圧を考慮し設計されたスポーツウエアなどについては、健康の視点に立った衣服圧の解析が必要である。そこで、衣服圧が生体にどのような影響を与えているかを、客観的に判断出来るような検査方法について検討するために本研究を試みた。上肢正中神経刺激による体性感覚誘発電位を指標として、約20msecから350msecまでの中・長潜時に着目し、腹部への圧迫時と無負荷時での変化を比較観察することにした。加圧カフを胴囲位置に装着し、加圧量は官能検査で「きつい」と回答した20〜40mmHg程度とした。しかし各部位で衣服圧は異なるので、小さなバルーン状の測定センサーで胴囲線上5部位の衣服圧を測定することにした。C4'、CZに置いた脳波用血電極(基準電極は両側耳朶に装着)で体性感覚誘発電位を記録した。鼻に装着したサーミスターにより呼吸運動をモニターし、吸気相の一定時点に到達した時、刺激装置をトリガーした。すべてはデータレコーダで記録し、実験終了後コンピュータで脳波の加算(1試行128回あるいは256回)を行った。頂点潜時の平均値・標準偏差についてみると、N2,P2,N3はいずれも安定した潜時を示すが、P3,N4,P4の頂点潜時はばらつきが大きい。各解析項目について相関する2つの平均の有意性の検定を行ったところ、振幅N3P4および頂点間振幅差(N3P4‐P2N3)の、加圧時の普通呼吸および深呼吸間において0.5%以下の危険率で有意差が認められた。このことは、加圧時の圧迫刺激が深呼吸すなわち意識して強い呼吸をすることにより、脳の活動に変化を及ぼし、体性感覚誘発電位の変化が生じたことを示していると考えられる。この脳の活動がどのレベルで起こったかは現在明かではないが、圧迫刺激が脳活動を変える指標となるであろう。
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