研究概要 |
骨格筋GLUT4濃度は血液から筋中への糖輸送能を決定する因子である。ラット骨格筋のGLUT4濃度がトレッドミルによる疲労因憊運動により,一過性に減少することを前回報告したが,これには疲労因憊運動による筋損傷と運動以外の非特異的ストレスの影響が考えられるので,今回は,5週齢の雄性SD系ラットに2週間の予備トレーニングを行わせた後,10%,30m/min,120minのトレッドミルによる疲労因憊に至らない一過性の走行運動を課した。筋グリコーゲン濃度は,ヒラメ筋において,運動直後には安静時の74%に減少したが,運動3時間後には243%に、運動24時間後には113%に回復した。このとき,筋GLUT4濃度は,安静時に対して運動直後には111%,運動3時間後には115%,運動24時間後には109%の値を示したが,GLUT4濃度の変化はいづれも統計的に有意ではなかった。運動後のインスリン感受性の亢進やそれにともなうグリコーゲン再合成亢進とGLUT4の働きと関連性についてさらに検討する必要があると考えられる。 次に,骨格筋がある活動状態に慢性的に適応した場合のGLUT4濃度の適応について検討した。7週齢の雄性SD系ラット10匹について片脚腓腹筋の腱を切除し,反対側を対照脚とした。5週後,左右の腓腹筋を摘出したところ,腱切除により活動量が低下した腓腹筋のGLUT4濃度は対照側の75%へと有意な減少を示した。このように,全身性因子が同一と考えられる左右両方の腓腹鎖において活動量に応じてGLUT4濃度が変化したことより,血中のインスリンやグルコース濃度といった筋細胞外環境因子とともに筋細胞そのものの活動状態がGLUT4濃度の決定因子であることが明らかになった。このことは、普段の筋活動レベルに応じて運動後のインスリン作用によるグルコース取り込みと,それにともなうグリコーゲン再合成の効率が調節されていることを示唆する。
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