研究概要 |
身体に障害を持つ人々の健康維持や体力向上を図るためには,まず,残存する能力を充分に活用でき,替在能力の導出が期持される運動様式を選択することが重要である。そこで,我々は彼らにとって至適な運動様式として水泳をとりあげ,水泳を通して発揮する運動能力を全身持久力の面から評価し,機能向上の可能性を追求することを目的とした。持に、ここでは二分脊椎症児を対象として分析を行なった。水中での運動能力は被検者の申告に基づいて各自が最も得意とする泳法によって評価し,これを3分間連続して実施した。泳法はクロ-ル,平泳ぎ,背泳,バタ足と多岐にわたった。水泳に慣れていない被検者に関しては浮き輪を使用したり,検者が体幹を保持して沈まないようにした。記録は心電図,水泳速度,ビデオ撮影について行った。水泳中の心拍数が120拍/分以上となった者は38名中36名(95%),140拍/分以上の者は70%であり,大多数の者にとって水泳が全身持久力の向上を促す運動様式に成りうることが確認された。そして,この能力は麻痺レベルの上下位とは無関係に発揮されていることが本結果から示された。さらに特記すべきは、心拍数が180拍/分以上にも達する高い運動強度を発揮できる者が数名存在したことである。なお,140拍/分以下の心拍数を示した者の水泳様式をみると,全員が浮き輪を装着するか検者が体幹を保持した状態でのバタ足,背泳ぎであり,水泳技術の未熟が認められた。これを裏付けるように,彼らの水泳速度は遅かった。逆に,160拍/分以上の高心拍数をもつ12名の内で10名はクロ-ル,残り2名は平泳ぎであり,その速度も速く,水泳技術としても習熟していた。この比較結果は,高い運動強度をもつ水泳が現時点で困難である者も技術の獲得によってその可能性は充分にあることを示唆させた。
|