今年度は、ラット脳・膜画分において、単分子状態にあると考えられる低濃度のガングリオシドが、タンパク質リン酸化に対して調節作用を持つか否かを検討した。その結果、若干の知見を得たので報告する。 1.分子量72kDaの膜タンパク質(72kDa)のリン酸化が、今まで報告されているよりはるかに低濃度のガングリオシドGQ1b(80nM)により活性調節を受けることを明らかにした。GQ1bの臨界ミセル濃度は明らかではないが、より疎水性の強いGT1bの臨界ミセル濃度が10^<-6>Mあたりであることより、今回我々が用いたGQ1bの大部分は単分子状態で存在することが予想される。現在までに報告されたものは、総てミセルとしてのガングリオシドを用いたものであり、その点、性格を異にする。 2.GQ1bは、72kDaへのリン酸の取り込みを昂進したばかりではなく、脱リン酸化に対しても促進的な作用を示した。GQ1bは、ATPase活性には影響を及ぼさなかったことから、GQ1bがリン酸化酵素、脱リン酸化酵素の双方に影響を与えるという可能性の他に、リン酸化基質としての72kDaそのものと関与するという可能性も考えられる。 3.電気泳動による分子量から、現在までに報告されている脳のリン酸化タンパクの中で、72kDaはシナプシンIIaとも考えられる。しかし、幾つか検討した結果、この可能性は否定された。おそらく、今まで報告されていないものであると考えられる。 この系の分子的機作を解明していくことは、ガングリオシドの持つ神経機能に対する作用を解析する一つのモデルとなることが期待される。
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