本研究により、EFハンド構造を有する新しいタンパク質のcDNAクローニングが行われ、その分子特性が明かとなった。なお、以下に述べる理由より、本タンパク質はレティキュロカルビン(reticulocalbin)と命名された。レティキュロカルビンは、325アミノ酸残基から成るタンパク質として合成される。アミノ末端には、20アミノ酸残基より成るシグナル配列が存在し、従って、成熟タンパク質は305残基から成ると考えられる。レティキュロカルビンは、全部で6個のEFハンド様構造を持つ。そのうち、第2、第3、第6のEFハンド様構造では、この構造のループ形成に必要とされるグリシン残基が別のアミノ酸へと置換しており、カルシウム結合能を消失しているものと推察された。従って、レティキュロカルビン1分子は、3ないし4個のカルシウムイオンを結合するものと思われる。なお、レティキュロカルビンが確かにカルシウム結合タンパク質であることは、カルシウムブロット法により証明された。レティキュロカルビンが小胞体内腔のタンパク質であることが、細胞分画後のイムノブロット、蛍光抗体法による染色等により示された。小胞体内腔に存在する多くのタンパク質のカルボキシル末端には、KDELというアミノ酸配列が存在し、その小胞体内腔残留において機能している。レティキュロカルビンのカルボキシル末端には、これによく似た配列HDELが存在し、この配列を除去するとレティキュロカルビンは培地中に放出された。したがって、レティキュロカルビンのHDEL配列は、本タンパク質の小胞体内腔残留機構に関与していることが明らかとなった。
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