中枢神経シナプス接合部における情報伝達において重要な役割を果たしていると考えられている後シナプス肥厚(PSD)に注目し、この部位に存在するプロティンキナ-ゼの解析を進めてきた。PSDにはカルモデュリン依存性プロティンキナ-ゼII(キナ-ゼII)が豊富に存在することが知られているが、その存在意義や可溶性画分に存在するキナ-ゼIIとの関係はわかっていない。そこでまず、これまで困難とされてきたPSDのキナ-ゼIIの単離精製を試みた。まず強力な変性剤であるグアニジン塩酸でPSDからキナ-ゼIIを可溶化し、再生処理をした後、従来の方法を用いてキナ-ゼIIを精製することができた。得られた標品の性質を調べたところ、自己リン酸化反応等の性質はPSDに組み込まれたキナ-ゼIIと異なり、可溶型キナ-ゼIIの性質を示すことがわかった。この結果は、PSD中のキナ-ゼIIと可溶型酵素が同一の蛋白であり、なんらかの原因で酵素の存在状態が変化することを示しているが、その機構についての解明は今後の課題である。さらにキナ-ゼII以外にPSDに含まれるプロティンキナ-ゼの解析は、我々が開発した活性ゲル法を主に用いて進めてきた。この方法を用いて検出されたPSD中のプロティンキナ-ゼは分子量116kDa、95KDa、78KDa、70KDa、64KDa、60KDa、50KDa、41KDa、37KDa、32KDaの10種類であり、二次元電気泳動法によりそれらのPIは6.7〜7.4の範囲に分布していることがわかった。これらの酸素のうち60kDaと50kDaはキナ-ゼIIであり、その他95KDa、78KDa、70KDa、64KDaもPSDに豊富にみられる酵素であった。この4つの末同定のプロティンキナ-ゼは、これまでに調べた種々の蛋白質を基質としてリン酸化しないことから、基質特異性の狭い酵素と考えられた。これらの酵素のさらに詳細な解析は、キナ-ゼIIと同様にPSDからの可溶化、単離精製が必要であり、現在進行中である。
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