研究概要 |
PSDのプロテインキナーゼ解析のために開発したゲル内リン酸化法を用いることにより、小脳細胞質画分に豊富に存在するCaMキナーゼIVが見いだされた。まず,ラット小脳から本酵素を精製し,その性質を詳細に調べた。精製酵素はSDS電気泳動上63kDaと66kDaの2本のバンドとして観察されたが,庶糖密度勾配遠心法とゲル濾過法によりモノマー酵素であることが明かにされた。本酵素の基質特異性は広く,シナプシンI,ミエリン塩基性蛋白質,微小管結合蛋白質2,チロシン水酸化酵素,ミオシン軽鎖など様々な蛋白質をリン酸化することがわかった。つづいて本酵素のリン酸化による活性制御について解析を行った。本酵素はカルシウム/CaM依存的な自己リン酸化により酵素1モルあたり約1モルのリン酸化が取り込まれ,それに伴い10倍以上の活性増大がみられた。この時,CaM非依存性活性も顕著に増大していた。^<32>P-ATPでリン酸化した酵素の分析を行ったところ、本酵素の活性化に関与するリン酸化部位が,C末端近くのSer^<437>であることが明らかになった。また,別のプロテインキナーゼによるCaMキナーゼIVのリン酸化を調べたところ,cAMP依存性プロテインキナーゼ(A-キナーゼ)によりリン酸化を受けることがわかった。A-キナーゼによるリン酸化では自己リン酸化とは逆に顕著な活性抑制が観察された。A-キナーゼによりリン酸化される部位はCaMキナーゼIVのCaM結合部位のごく近傍であることが,リン酸化酵素のアミノ酸配列分析より明らかにされた。A-キナーゼによりリン酸化された酵素はCaMに対する親和性が低下していたが,この原因はCaM結合部位近傍へのリン酸基の導入によるためと考えられた。以上の結果から、CaMキナーゼIVが2種類の異なるセカンドメッセンジャーにより逆向きの活性制御を受ける興味深いプロテインキナーゼであることが明らかになった。
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