本研究実施期間中に以下の研究成果が得られた。(1)後シナプス肥厚部(PSD)のプロテインキナーゼの解析-ゲル内リン酸化法によりPSD中に約10種類のプロテインキナーゼが検出された。このうち60kDaと50kDaの蛋白は、その性質からCaMキナーゼIIであることが示された。そのほか95kDa、78kDa、70kDa、64kDaのプロテインキナーゼは特にPSDに豊富にみられる酵素であり、これまでに報告されていない新しい酵素であった。これらの酵素は、自己リン酸化活性は見られるもののその生理的基質については末だ同定されていない。また、PSD中に含まれるCaMキナーゼIIを可溶型酵素と比較するためにPSDからの単離精製を試みた。PSDの構成蛋白をグアニジン塩酸処理により可溶化し、再生した後単離精製したCaMキナーゼIIは可溶型酵素と同じ性質を示すことから、これらの酵素は存在状態が異なるだけで酵素そのものは同一分子であると結論された。(2)脳特異的CaMキナーゼIVの解析-ゲル内リン酸化法により、脳特異的なCaMキナーゼIVが検出された。ラット小脳からCaMキナーゼIVを精製し、その性質を調べた。本酵素はSDS電気泳動では63kDaと66kDaの2本のバンドとして観察されるが、モノマー酵素であった。基質特異性が広くCaMキナーゼIIと同様に多機能性プロテインキナーゼであると考えられた。本酵素は自己リン酸化により著しい活性増大が見られたが、そのリン酸化部位はSer^<437>と同定された。また、A-キナーゼによるリン酸化では自己リン酸化とは逆に活性の抑制が見られた。このときのリン酸化部位はCaM結合部位のごく近傍に存在するSerであることが示された。このようにキナーゼIVは蛋白質リン酸化反応で複雑な活性調節を受ける興味深い酵素であることが明らかになった。
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