ヒト膜型μ鎖遺伝子導入マウスにおいて、内在性(マウス)の抗体H鎖遺伝子の組換えならびに発現がほぼ完全に排除されているのにもかかわらず、LPSとILー4により刺激・培養された脾臓細胞の2〜8%がヒトIgMとマウスIgGの二重アイソタイプを同時発現しうること、またこの脾臓細胞集団中に導入遺伝子(ヒト)可変部と内在性(マウス)定常部が結合したmRNA(トランスmRNA)を発現するものが存在することを発見した。この実験結果は、この遺伝子導入マウスにおいては異なった染色体間におけるクラススイッチ組換え、もしくはトランス・スプライシングが起きていることを示している。次に、この二重アイソタイプ産生細胞を二色蛍光抗体による同時染色によって検出し、セルソ-タ-によって分取した。また、この遺伝子導入マウスとcーmyc発癌遺伝子を導入されたマウスとの交配によって生まれた子孫に生じたリンパ腫(12種)を収集した。これらから、DNA及びRNAを抽出し、RNA中のトランスmRNA発現をPCR法、RNase protection法によって検討したところ、分取した二重アイソタイプ産生細胞ならびにproーB細胞リンパ腫の一つにおいてヒト導入遺伝子と同時にトランスmRNAの発現が確認された。さらにこれらの細胞のDNAのサザンブロット法による解析の結果、このトランスmRNAの発現は遺伝子の組換えを伴っていないことが判明した。以上の結果は、トランスmRNAが遺伝子の組換えなしに発現していることを示しており、トランス・スプライシングによって抗体の多重アイソタイプ同時発現が起こっているとの仮説にほぼ証明が与えられた。
|