本研究ではまず、1)ヒト膜型μ鎖遺伝子導入マウスの脾細胞において、内在性μ鎖遺伝子の発現が排除されているにもかかわらず、LPSとIL-4の刺激によって、導入遺伝子であるヒトIgMと内在性のマウスIgGが同時に発現される。2)このとき、導入遺伝子のヒト可変部と内在性マウス定常部(γ1)からなるトランスmRNAが産生される。また、この遺伝子導入マウス由来のProB細胞リンパ腫において、導入遺伝子由来のヒトμ鎖mRNAとトランスmRNA(γ2a)が同時に産生されている。3)トランスmRNAは遺伝子(DNA)レベルでの組換えなしに産生されている。等が明らかにされ、少なくともこの遺伝子導入マウスの系統においては、トランス・スプライシングによって、抗体の多重アイソタイプが発現されているものと考えられた。続いて、この現象が特定の系統の遺伝子導入マウス、あるいは限られたアイソタイプの遺伝子においてのみ見られる特殊なものではなく、正常Bリンパ球でも起こる一般的なものであることを示す目的で、マウス発現型μ鎖遺伝子導入マウスの系統について検討するとともに、ヒト模型μ鎖遺伝子導入マウスにおいて髀細胞の刺激方法を検索して、既に検出されているもの以外のアイソタイプを持つトランスmRNAの検出を試みた。その結果、1)トランスmRNAの発現は特定の系統に限られたものではない、即ち導入遺伝子の可変部の種類や挿入位置には因らないものである。2)クラススイッチの標的となる全てのアイソタイプについてトランスmRNAが産生される。3)トランスmRNAの産生調節は、クラススイッチのそれと概ね類似しているが、細部については異なる特徴を有している。等が明らかとなった。この成果により、抗体の多重アイソタイプ同時産生は、トランスmRNAの産生、即ちトランス・スプライシングによっていることがほぼ判明した。
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