ブタ腎臓より精製した中鎖アシルCoA脱水素酵素の酸化型、還元型における補酵素FADの電子状態、ならびに基質アナログであるアセトアセチルCoAとの複合体やオクタノイルCoAとの反応で生じる紫色中間体について、核磁気共鳴法と共鳴ラマン分光法などを用いて調べた。その結果、以下に示すフラビン酵素の触媒機能の調節制御に関する貴重な知見を得ることができた。 酸化型については、C-13およびN-15NMRの測定結果から、FADの2位と4位のカルボニル基および1位と5位の窒素原子がタンパク質部分と水素結合しており、特に4位のカルボニル基と5位の窒素原子の水素結合が強いことが示唆された。 還元型では、補酵素FADが中性型ではなく陰イオン型還元フラビンであることが明らかとなった。また、4a位の炭素上の電子密度が、酸化型、還元型をとわず、極めて低くなっていることも明らかとなった。この結果は、中鎖アシルCoA脱水素酵素と分子状酸素との反応が抑制され、酸化酵素としての働きを阻害していることをよく示しており、触媒機能の調整作用を示すものである。 アセトアセチルCoAとの複合体については、FADは酸化型でありアセトアセチルCoAはエノレート型で1位の水酸基の解離した陰イオン型となっていることが明らかとなった。また、紫色中間体は、オクタノイルCoAとの反応で生じた還元型FADと基質のオクタノイルCoAとの複合体であることが明らかとなった。この複合体においても、オクタノイルCoAはエノレート型で1位の水酸基の解離した陰イオン型になっていることが示された。これらの結果から、この酵素の反応初期におこるアシルCoAの2位のプロトン引き抜きが、エノール型陰イオンをとることにより容易になっていることが示された。
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