本研究では、放射光の利用によってはじめて可能になった、X線から紫外線にわたる広大な波長領域の単色放射線の効果を、特に誘発突然変異体におけるDNA塩基配変化に着目して解析することを目標としている。試料としては、真空中での照射が可能な細胞系として、枯草菌胞子をもちいている。枯草菌から突然変異体を分離してそのDNA塩基配列を調べる簡便な実験系の開発からはじめたが、本年度の研究によりほぼ完成させた。この系では、各種放射線を照射された胞子から、ナリジキシン酸抵抗性の突然変異体を分離し、それぞれの菌株からDNAを抽出し、gyrA遺伝子の一部(163bp)をポリメラ-ゼ連鎖反応によって増幅させる。つぎに増幅させたDNA断片を加熱により単鎖として、ポリアクリルアミドゲル電気泳動し、泳動パタ-ンの比較により、タイピングする。現在までに13タイプが見つかり、それぞれが特定の塩基配列変化を示した。この方法により、約150株の放射光照射によるものを含む約400株の突然変異体の配列解析を行なった。このうち8タイプは、一塩基置換であり、GC対からAT対への変化によるものが最も多く、これは紫外線、ガンマ線、放射光の真空紫外線、軟X線とも同様であった。放射光照射によって誘発された突然変異体で特殊なものは、残りの5タイプの二ないし三の連続した塩基対が一時に変化したものであり、真空紫外線(150nm)照射による二塩基連続変化(CAからTT)や、リンK殻吸収の共鳴波長での照射による三種類の二塩基連続変化と一種類の三塩基連続変化などの特異的な変化をみいだした。
|