研究概要 |
先にわれわれは、哺乳動物細胞やニワトリ細胞において新しい熱ショック蛋白質hsp40を見い出し、ヒトのhsp40のN末部分的アミノ酸配列がバクテリアの熱ショック蛋白質の1つであるDnaJとホモロジーのあることを報告した。今年度はHeLa細胞のhsp40を電気泳動的に大量に精製して抗hsp40抗体(ポリクローナル)を作製し、蛍光抗体法および細胞分画法法などにより細胞内局在を中心に検討した。 熱ショックを与えない対照のHeLaおよびNRK細胞では、hsp40は細胞質にうっすらと存在しているが、熱ショックを加えると核・核小体に移行する。熱ショック後細胞を37℃で培養しておくと、hsp40は再び細胞質の戻ってくる。これはhsp70の挙動とよく似ている。実際にhsp40とhsp70の熱ショックによる細胞内移行の動態を蛍光染色とウエスタンブロットで調べると両者の挙動はよく一致していた。また熱ショック後の細胞を抗hsp40抗体とhsp70抗体で二重染色してみると、両者はまったく同じ細胞の同じ核小体に局在していた(co-localize)。バクテリアにおいてはDnaK(hsp70ホモローグ)とDnaJは1つのシャペロン系として、ポリペプチドのfolding,unfoldingまた蛋白質複合体のassembly,disassemblyに関与していることが知られている。今回のわれわれの結果は、哺乳動物細胞においてもhsp70とhsp40が協同して、核小体内で熱ショックにより変性した蛋白質の修復に働いていることを示唆している。つまり、hsp70とhsp40は熱などのストレスから細胞を防護するよう機能していると考えられる。 次に熱ショックにより核小体内に蓄積したhsp70およびhsp40の核小体内からの遊離に対するATPの効果をHeLa細胞を用いて検討した。hsp70については、既にLewisとPelhamが報告しているように、ATPの添加により遊離してきた。しかし、hsp40はATPや0.5MNaClによっても遊離してこなかった。従ってhsp40はhsp70とは異なる機構で核小体から遊離してくることが示された。 なお、細胞分画法によるhsp40の細胞内局在を調べたところ、全体のhsp40の80%前後は細胞質に分画されるが、10-20%はミクロゾーム画分にも局在していた。このミクロゾーム画分に存在するhsp40はproteinaseKに抵抗性であることからミクロゾームのルーメン側か、または細胞質側にあってもproteinaseKでは分解されない状態にあると考えられる。酵母におけるDnaJのホモローグの1つであるYDJ1はC末がファルネシル化されており、そのことによってYDJ1の一部はERに局在することが報告されている。われわれのhsp40がファルネシル化されているかどうか現在検討中である。
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