超プルトニウム元素は少量しか扱えないため、その化合物合成はマイクロテクニックに頼らざるを得ない。このため本研究では、超プルトニウム元素の代りに化学的類似物であるランタナイド元素を用いて、ヒ素化合物合成の出発物質の1つであるハロゲン化物の微量合成法を昇華性ジピバロイルメタンキレートを金属蒸発源とした化学気相析出法による合成を検討してきた。これまでの結果によれば、酸素・水蒸気・フロン12を反応ガスとした場合には良質の析出物が得られるのに対して、硫化水素・アンモニアガスとの反応では必らずしも満足な析出物は得られていない。本法を超プルトニウム元素のヒ素化合物合成に利用するには、硫黄・窒素・臭素等のより電気陰性度の低い元素との化合物の合成法を見いだす必要がある。本年度は(1)これまでの単純なジピバロイルメタンキレートではなく、2種類の金属を含むヘキサフロロアセチルアセトンキレートCsLn(hfa)_4とTlLn(hfa)_4(Ln=Nd.Yb)の合成と気相反応の検討(2)電気陰性度の高いランタナイドやアクチナイド元素のジピバロイルメタンキレートの気相反応を理解するため、逆に電気的陰性度の低いTl(I)のシピバロイルメタンキレートTldpmの合成と気相反応の検討を行なった。なお、ここで合成したタリウムを含むキレートTlLn(hfa)_4及びTldpmは新規化合物である。これらの新現化合物の合成収率は40-70%であり、通常のβ-ジケトンキレートの場合と遜色はなかった。これらのキレートは熱重量分析・示差熱分析及び電子線衡撃質量分析法から化学気相析出法の金属源として有用であることが確認できた。興味深いのはTldpmの気相反応であり、反応ガスがCCl_2F_2の場合には塩化物が、CBrF_3の場合には臭化物が合成された。この事実により電気陰性度の異なる金属キレートの反応性について新らしい知見が得られた。
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