研究概要 |
研究対象流域として,筑波大学川上演習林内に設置した試験流域(流域面跡0.14km^2)を選定し,本年度はトリチウムをトレ-サ-として,降水,土壌水,地下水,流出水の滞留時間について考察を行った。今年度得られた知見は以下の通りである。 1.流域への入力となる降水のトリチウム濃度(1989〜1991)には3.1〜8.4T.U.であり,各年とも4月に最も高い値を示す。 2.1989〜1991年の3年間における土壌水と地下水のトリチウム濃度はそれぞれ,2.6〜8.8T.U.,7.6〜11.9T.U.の値を示し,土壌水に比較して地下水はかなり高いトリチウム濃度を示す。 3.同じく1989年〜1991年の流出水(渓流水)のトリチウム濃度は6.6〜10.5T.U.の間で変化し,土壌水と地下水の中間的な値を示す。 4.降水,土壌水,地下水のトリチウム濃度に基づいて,完全混合モデルによって求めた土壌水と地下水の滞留時間はそれぞれ,4ケ月と19年である。 5.流出水はこれら滞留時間の異なる土壌水と地下水である割合で混合したものであり,流出水のトリチウム濃度に基づいて物質収支式から求めた流出水に対する土壌水の寄与割合は0.7である。 6.一方,本試験流域において,過去5年間の水収支から求められる流出水の滞留時間は約10ヵ月であり,トリチウムをトレ-サ-として求めたそれと大きく異なる。 7.上記6の結果は,土壌水と地下水を含む地中水が水循環に一様には関与していないことを示唆するものであり,流域の乾湿の状態によって,地中水の流動様式は異なることを意味している。 次年度以降は,本年度の研究成果を踏まえ,溶存成分濃度の流域内における平均化作用について考察を進める予定である。
|