研究概要 |
研究対象流域として筑波大学川上演習林内に設置した試験流域を選定し,トリチウム,デューテリウム,酸素-18ならびに無機溶存成分をトレーサーとして,流域内循濃水の滞留時間と溶存成分濃度の平均化作用について考察を行った。本研究の結果得られた知見は以下の通りである。 1)流域内土壌水,地下水,流出水のトリチウム濃度から求められる渓流水の平均滞留時間は2.5年である。この値はこれまでに得られているわが国の山地源流域の河川水のそれに比較して妥当な値である。 2)上記渓流水の滞留時間は見かけ上の値であり,実質的には滞留時間約4カ月の土壌水と滞留時間約19年の地下水が7:3の割合で混合したものである。 3)この土壌水と地下水の混合は斜面基部から谷底にかけてのriparian zoneと呼ばれる範囲において行われており,河川水の無機溶存成分の形成を考える上でこのriparian zoneが重要である。Riparian zoneでは滞留時間の短かい土壌水と滞留時間の長い地下水の流線が集中し,これによって両成分の混合が行われ,河川水の水質が決定することが明らかとなった。 4)土壌水の安定同位体比は深度1m以深においては大きく変動せず,ある一定の値に収束する均質化現象が認められる。この均質化現象は土壌水の動的挙動と密接に関係しており,深度1m以内に生ずる収束ゼロフラックス面と発散ゼロフラックス面の発生・消滅が大きな原因となっている。 5)安定同位体比に見られるる流域内での均質化現象は,発散ゼロフラックス面が消滅し,収束ゼロフラックス面が形成される際に,この収束ゼロフラックス面の近傍で古い水と新しい水が混合することによって生ずる現象であることが明らかとなった。
|