(1)ニクバエの口吻試料から抽出したtotal RNAおよびこれより精製されたmRNAを用いてxenopus卵母細胞の形質発現系を確立した。導入されたRNAによりニクバエ味細胞の刺激効果の確かめられている糖の潅流刺激に対して有意な内向電流応答が確認された。標本により差異はあるが、ハエで刺激性の高い蔗糖やグルコースに高い応答を示し、刺激性の低いマンノースやラクトースにはほとんど応答が見られないことも確かめられた。更にこの応答の性質を解析する必要があるが、味細胞から得られた受容体または情報伝達分子の遺伝子が発現していると考えられる。 口吻試料から分解や変性の少ないインタクトのRNAを充分な量で抽出する方法についても改良がなされた。 (2)ショウジョウバエの味覚遺伝子Treを含むゲノム断片をYACクローンとしてもつ酵母からYAC部分をパルスフィールド電気泳動法で分離した。これを回収し、制限酵素で切断したものをショウジョウバエのP因子ベクターに挿入したものを現在作成中である。 (3)味覚遺伝子Treの発現については主としてこれまで摂食など行動学的な方法で解析が行われたが、発現の分子レベルの解析には直接味細胞の受容器電位や電流応答の解析が不可欠である。今年度はTreに関する生理学的な解析と遺伝学的解析についての報告をまとめた。 (4)味覚の分子機構についての遺伝的アプローチはまだ萌芽的研究の段階にあるが、国内外で注目されつつある。これまでの研究成果については、米国(The Scientist誌)で、また昨年9月の国内の新聞(読売)でも紹介された。
|