1.ショウジョウバエの味覚遺伝子Treは糖に対する味感度を支配する遺伝子で、動物味覚受容機構に関与する遺伝子として唯一遺伝的性質が明らかにされた遺伝子である。 2.この遺伝子は唾腺X染色体5A-B境界領域にある数本のバンド内にあり、野生集団中には遺伝的2型があって、二糖類の糖であるトレハロースに対して顕著に摂食いき感度が異なる。 3.この遺伝子は他の糖類に対しては大きな感度の差異をもたらさないので、トレハロースや、おそらく限られた糖にのみ特異的な受容機構、ないし情報伝達機構に関与する遺伝子と思われる。 4.Tre対立遺伝子の発現は不完全優性で、また両対立遺伝子ともに遺伝子量効果を示し、正常な2倍体量を増減させると味感度も変化することから、Treは味覚の分子機構の重要なタンパク質をコードする構造遺伝子である可能性が高い。 5.本研究ではTre遺伝子がショウジョウバエ口器の唇弁感覚毛からの記録で糖に応答性をもつ味細胞のトレハロース応答感度が明らかに変化していること、したがってこの遺伝子の発現部位が予測されたように味細胞であることを証明した。 6.次にこの遺伝子から転写され、発現するRNA分子やタンパク質を分離、同定することをめざし、大量に得られるニクバエ唇弁試料をもちいて、RNAおよびpolyA-RNAを抽出し、これをアフリカツメガエルの卵母細胞へ注入発現させる系を開発した。 7.この実験系では、少なくともある種の糖刺激に対してRNAを注入されなかった対照群では見られなかった内向き電流応答が得られている。 8.一方ショウジョウバエゲノムライブラリーからTre遺伝子を直接検索同定するため、この遺伝子を含むゲノムクローンからの分離を現在行っている。
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