大腸菌のftsH遺伝子は菌の成育に必須で、その遺伝子産物は70.7kDaの蛋白である。FtsH蛋白を内膜を2回貫通し、細胞質に位置するC末端は、ATP結合ドメインを持つことを明かにした。ホモロジー検索により、ATP結合ドメインを含む約200アミノ酸残基の領域は真核細胞で発見された一群のATPアーゼ、Sec18p、CDC48pなどと高い相同性を示すことが明かとなった。温度感受性のftsH変異株を解析して、隔壁形成酵素ペニシリン結合蛋白3(PBP3)の量が減少すること、PBP3のC末端のプロセッシングが遅れることを明かにした。このプロセッシングの遅れは翻訳後PBP3が膜に挿入される過程または挿入後のいずれかの段階に欠陥があるために起こる。さらにftsH変異はβ-ラクタマーゼの分泌を強く阻害することを明かにした。ftsH変異株においてGroE活性はほぼ正常であったが、GroEの過剰産生によってftsH変異によるPBP3のプロセッシングの遅れとβ-ラクタマーゼの分泌阻害が有意に抑制された。京都大学のグループは内膜蛋白の安定なアンカーリングに影響を及ぼす変異株を分離し、その変異がftsH遺伝子に起こった変異であることを明かにした。京大グループとの共同研究によって温度感受性のftsH変異も同様の表現型を示すこと、またC末端の大部分を欠失したFtsH蛋白やATP結合部位に変異をもつFtsH蛋白を発現させた場合にも同様の表現型を示すことを明かにした。ATP結合部位に変異をもつFtsH蛋白を発現したときにはβ-ラクタマーゼやOmpAの分泌阻害も観察された。これらの結果より、FtsH蛋白は膜蛋白や分泌蛋白の正常な局在化(分泌、折り畳み、アセンブリー)に働く膜結合性のシャペロンと推定される。
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