我々はS期初期に複製する複製単位の制御機構を調べるため、薬剤を用いる同調法をラット培養細胞に用いて、S期初期に複製するDNA領域のクロ-ン化を試みた。細胞を増殖刺激後一晩ヒドロキシウレア存在下で培養すると数十から百kbの新生鎖が蓄積し、約1%の鋳型DNAが複製される。複製された領域を取り出してクロ-ン化を行った。現在5個のクロ-ン(4kb以下)がS期初期に複製される事が確認された。一方PCNA遺伝子などはこの時期に複製されなかった。この事はS期初期に複製しうる複製単位とそうでない複製単位の区別がある事を意味する。しかしS期初期に複製するものも、約10%の鋳型DNAが複製されるまでS期を進行させても約半数の細胞で複製されるにとどまった。この事はすべての細胞で同事に複製が開始されていない事を示唆する。またS期初期に複製されるクロ-ンについて、ヒドロキシウレアとアフィディコリンを併用して、DNA合成開始時に同調する方法を用いて複製した事が確認されるまでの時間を比較した結果、クロ-ン間で差が見られた。もしこれがクロ-ン化された領域とその複製単位の複製開始点との距離の違いを反映するならば、それぞれのゲノミッククロ-ンを取れば、複製開始点を決定できる。通常のゲノミックライブラリ-では5個のクロ-ンそれぞれ約百万個スクリ-ンしても対応するものが取れなかった。そこでS期初期に複製する領域のゲノミックライブラリ-を下因子ベクタ-と大腹菌DH10Bを用いて作製し、数万個スクリ-ンした結果、すべてのクロ-ンに対し、10〜50kbのゲノミッククロ-ンを得ている。この事は現在得られているクロ-ンは、通常の方法ではクロ-ン化が困難な領域である事を示唆している。現在、それぞれのクロ-ンの制限酵素地図の作製とシングルコピ-領域の検索を行っている。
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