研究概要 |
遺伝子の塩基配列を解読して、そこにコ-ドされた蛋白質の立体構造を推定出来るようになるためには、所定のアミノ酸配列を持つ一次元のポリペプチド鎖が折れたたまって三次元の立体構造を経成する過程(Protein Folding)を理解しなければならない。そのような目的をもって、これまで我々はリゾチ-ムの天然の立体構造し、リゾチ-ム断片鎖の二次構造形成能との相関関係を調べてきた。トリフロロエタノ-ル(TFE)を溶媒の水に添加していくと、容易にヘリックス構造を形成する部分鎖と、ランダムコイルのままの部分鎖とがある。「ヘリックス形成能の高い部分鎖は天然立体構造でもへリックス構造をとる」という相関関係があることを我々の実験は明かにした(Biopolymers 31(1991),497ー509)。このような相関関係は他の蛋白質でも成り立つだろうか。 そこでチトクロ-ムcを用いて同様の実験を試みた。この蛋白質をトリプシンで限定分解し、逆相のHPLCにかけるとT1からT14までのチトクロム断片鎖が単離したピ-クとして現れる。これを集めて精製し、10種類のペプチド断片鎖をアミノ酸分析した。T1(残基1ー5)、T4(9ー13),T5(14ー25)、T7(28ー38)、T9(40ー53)、T11T12(56ー73)、T14(80ー86)を精製して、その円二色性スペクトルを測定した。T1、T4、T14などの部分鎖は重合度が10以下と、あまりに短いペプチド断片であるため二次構造形成を議論するには不適切である。実際、TFEを添加してもランダムコイルのスペクトル以上のものを示さなかった。しかし、T11T12(56ー73)は220nmに大きな負の楕円率を示し、TFEの添加によって、その傾向は一層加する。一方、T9(40ー53)、T7(28ー38)はある程度の長さがあるにもかかわらず、TFE添加によってもランダムコイル状のスペクトルを示すのみであった。天然のチトクロ-ムcの立体構造と比較すると、T11T12は典型的なαヘリックス構造をとり、T7、T9は不規則なコイル構造をとっていて、所期の目的にかなう結果を与えている。しかし、もっと種々の部分鎖の性質を比較検討してみないと、上記のように結論するわけにいかないであろう。
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