アミノ酸配列情報から蛋白質の立体構造を予測するための第一の課題は、その2次構造分布を知ることである。我々はリゾチームという蛋白質を用いて、それをトリプシンで小さく分解してその部分ペプチド鎖のとる構造を円偏光二色性(CD)スペクトルで研究した。その結果、天然蛋白質の立体構造でalphaヘリックスをとる部分は、TFE(トリフロロエタノール)という溶媒中におくと断片ペプチド鎖でもalphaヘリックスをとることが見いだされた。この相関関係が一般に成り立つならば、立体構造未知の蛋白質に対して、ペプチド断片に分解してそのTFE中の構造を分光学的に調べればalphaヘリックスの位置を決定することが出来る。2次構造が実験的に決定できれば、立体構造を理論計算で推定することが可能となるであろう。リゾチーム以外の蛋白質でもこの傾向が成り立つか、チトクロームcという蛋白質を用いて研究を拡張した。V8プロテアーゼで分解すると適当な長さのペプチド断片が得られる。TFE中でCDスペクトルを測定すると、1-21、56-73と91-103のペプチド断片はalphaヘリックスをとる傾向が強い。チトクロームcに対しても我々の予測は当っていた。この研究の途中、我々は予想外の事実を発見した。1-44と45-103のペプチド断片は、それぞれ単独では立体構造を形成しないが、両者を混合すると、ほとんど天然蛋白質と同じ立体構図をもつ断片複合体を形成する。これらのペプチド断片はDNA上のエクソン対応ペプチドに近く、それが蛋白質立体構造の構築単位に対応していることが推測される。蛋白質立体構造の進化とも関連した興味のある研究となった。この複合体形成の反応速度論的研究を行ったところ、alphaヘリックス形成と、立体構造と回復が同時に起きることを観測した。これらの研究成果は近く論文発表する予定である。
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