1. 目的:視線移動から精神遅滞児が視覚情報をどのように取り込み活用しているのかを追跡し、個々の子どもに即した有効な視覚刺激呈示方法をみつけ彼らの学習を促進させる手だてを探ることを目的とした。 2. 研究成果: 個々の課題について得られた知見は以下のとおり。 (1)図形探索における視線移動の発達的変化: 精神遅滞児の視覚認知特性評価に先立ち、6才〜11才の子どもで幾何学図形探索時視線移動の発達的な変化を検討した。年少児は、頻繁にテンプレート図形を確認し、また一回あたりの凝視時間も長いが、8才ころには効率的な探索が可能になる。 (2)精神遅滞児の図形探索: 精神遅滞児は個々の凝視点での停留時間が延長し、同じ所を繰り返し見るなど効率的な探索に固難性が認められた。 (3)視覚認知特性評価: 頭部に装着したCCDカメラで捉えた眼前の視界と視線位置とを重ね合わせ、精神遅滞児が視覚課題をどのように見るかを検討した結果、個々の子どもが対象図形を順次見ている様子はほぼ推定でき、計数や図形を比較判断する経過を一定程度捉えることができた。 (4)視野: コンピュータ制御方式の全方位視計測装置を作成し、16名の精神遅滞児の視野計測をおこなった結果、大半は十分な広さの視野を有していたが、16名中4名は幾分視野が狭くなっていた。 (5)周辺視機能: 大半の精神遅滞児は十分な周辺視力を有することが確認された。しかし、彼らの視覚認知に活用される視野範囲である有効視野は狭くなっており、入力情報の活用にやや制約があるものと考えられる。 3.結論: 精神遅滞児の多くで視覚情報入手の基本的機能である視野や周辺視力分布は正常に機能しており、彼らの視覚認知での困難さや制約は、視覚情報の有効利用や中枢での情報処理に起因しているものと考えられる。しかし、狭い視野や周辺視力を示した一部の精神遅滞児には、その視機能状態に応じた教材呈示を工夫する配慮が必要と考えられる。
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