本研究の目的は、小・中学校の児童・生徒に植物の多様な生殖方法と繁殖戦略を効率よく学習させるために、適当な生物教材とそれを用いた観察・実験を開発すると共に、教育現場における試行を通して適切な教授法を考案することであった。 現行及びこれまでの小・中学校の学習指導要領(理科)と理科教科書で、生殖と繁殖に関連した用語、生物教材及び生徒むけの観察・実験項目を調べた。更に、用いられている生物の教材性を検討した。その結果、これまでの生殖・繁殖の扱われ方では、児童・生徒に“子孫を殖やし、分布を広げる"という生物の特徴を十分に認識させることが出来ないように思われた。また、取り上げられている生物教材は、必ずしも児童・生徒の身近なものとは言えず、取り上げ方も検討の余地のあることが明らかになった。次に、植物の生殖・繁殖についての児童・生徒の理解度や認識の程度を、質問調査によって調べたところ、児童・生徒の理解度は低く、中学3年生でも統一的な認識を持っている者は少なかった。 そこで、有性生殖・無性生殖・無性生殖の観察あるいは植物の繁殖の学習に適すると思われる植物について、観察・実験条件を検討した。また、様々な繁殖方法をスライド及びビデオに記録し、視聴覚教材を作製した。このようにして開発・作製した観察・実験教材及び視聴覚教材を用して授業を行うための教授法を検討し、児童・生徒用の観察・実験マニュアルと教師用指導マニュアルを作成した。開発した観察・実験教材及び視聴覚教材を用いた授業を、東京都内の公立小・中学校で行い、児童・生徒及び指導教論の反応を調ベた。事前・事後の質問紙調査の結果を比較すると、この授業を通して児童・生徒の生殖や繁殖についての認識が深まり広がったことがわかった。また、指導教論からは、教材の有効性が指摘された。
|