(1):5年算数教材「割合」の事前テストを、1991年10月、岩手県二戸郡安代町田山小5〜6年生、盛岡市大慈寺小5〜6年生、同市高松小5〜6年生、岩手大学教育学部付属小学校5〜6年生を対象として実施した。誤答分析の結果、次のことが明らかになった。 (1)全体的に言って、多くの5年生にとって「割合」の文章題の解決は難しいものとなっている。 (2)「割合」の文章題解決の難易は、用法別には一概に決めがたい。強いて言えば、易→難の順序は、第2用法(「もとにする量×割合=割合にあたる量」)→第3用法(「割合にあたる量÷割合=もとにする量」)→第1用法(「割合にあたる量÷もとにする量=割合」)である。 (3)「割合」の文章題において、求めている量が内包量である場合(特に、濃度)、その解決は難しくなる。 (4)全体的に言って、「割合」の文章題解決の前提である「もとにする量」を同定する認知的技能が子どもたちに学習されていない。 (5)しかし、「もとにする量」を同定する難易は、問題のテキストの中でこの量がどのように表現されているかによって異なっている。易→難の順序は、次の通りである。「〜をもとにすると」→「〜を」→「〜に対して」→「〜の」→「〜のなかの」([表1]参照)。 (5)「もとにする量」を同定する難易の最も大きい決定因は、問題のテキスト(特に、長いテキスト)の中での、この量が書かれて位置である。この量が後に出てくるときは難しくなる。このことは、[表2]のデ-タに端的に示されている。 (2):誤答分析の結果を参考にして[授業書]を駒林が作成し、1991年10月27日〜11月6日の間、田山小学校5年梅木学級において駒林(2時間)、梅木教諭(9時間)が、計11時間の授業を行った。この授業によって、事後テスト(授業の2日後、実施)の結果、「表3」に代表的に示されているように、子どもたちは「もとにする量」を同定する認知的技能を学習することができた。 (3):しかし、[授業書]に拠る授業によって、子どもたちは「もとにする量」を同定する認知的技能を学習したにも拘わらず、「割合」の文章題解決の技能を学習できた子どもは、文章題の内容により変動はあるものの、概略、50%〜70%の範囲内に留まっている。このことの理由として第1にあげられなくてはなぬのは[授業書]の不備であろう。一斉授業のため、個々の子どもの学習のテンポに適応できなかったことも重要な理由であろう。この個人差を考慮した適応的プログラムの作成と、このプログラムによるパソコン学習の実施が、残された研究課題である。
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