1).5年算数教材「割合」の授業書を駒林が作成し、1990年10月、岩手県二戸郡安代町田山小学校(準へき地校)5年1組において計11時間(2時間は駒林、9時間は担任の梅木教論)の一斉授業形式の試行授業を行った。誤答分析に基づいて授業書を改訂した。改訂された授業書に基づいて、辻野がCAIコースウェアを開発した。1992年7月、岩手県岩手郡滝沢村篠木小学校6年1組で、辻野がパソコン授業を行った。 4年算数教材「面積の下げ換算」の授業書を駒林が作成し、1992年2月、岩手県二戸郡安代町田山小学校(準へき地校)6年1組で、また、1992年11月、岩手県一関厳美小学校5年1組で、通常の一斉授業の形式による試行授業を行った。この授業書に基づいて、辻野がCAIコースウェアを開発し、1992年9月、岩手県岩手郡滝沢村篠木小学校6年1組で、辻野がパソコン授業を行った。 2).パソコン授業の結果、80%以上の被検児童が、難教材とされる「割合」、「面積の下げ換算」を理解できた。後者の教材についていえば、{8km^2=□m^2?}の問題で85%の子どもが正答している(通常は5〜6年生の50%前後が、[8000m^2]と誤答する。「長さの下げ換算と面積の下げ換算との混同」の誤りである)。また、パソコン授業によって、部分的に学習の個別化を実現することができた。枝わかれプログラミングの手法を取り入れることによって、プログラムの適応性を増大することができた。 3).しかし、パソコン使用がそれ自体として学習効果を保証するものではないことを、本研究によって明らかにすることができた。すなわち- (1)上記教材の学習効果が上がった第一の原因は個別化によるというよりも、コースウェアー開発の基礎であった授業書の内容である。二つの授業書は何れも、教科書教材に記載されてる学校知を組み替えて作成されたものであった。もし、この学校知の組み替えを行わないならば、パソコン授業、一般的に言ってCAIは、訓練用・ドリル用機能しか果たしえず、新しい教材についての「理解のドロップ・アウト」を未然に防止することはできないであろう。 (2)同一の授業書の基づいて行われた二つの授業-一斉授業形式の試行授業とパソコン授業-の事後テストの結果には統計的な有意な差は見られなかったが、学習の転移の面では、むしろ前者が高正答率であった。このことは、授業書作成者とCAIのコースウェア開発者の教材分析・解釈力の差によると思われる。 (3)パソコン授業で新教材を学習させる場合、新教材にたいする学習意欲の喚起をどうプログラム化するかが、重要な問題となる。この点で、われわれの研究は、不十分の結果しかえられなかった。
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