本研究は、後期仏教論典のうちサンスクリット原典が散失してチベット訳だけが現存するものを、他の文献のチベット訳語例を電算機処理によって解析して、サンスクリット原典の原型へと再構成することを目指している。その準備的研究として、サンスクリット語原典、漢訳との対比のうえでのチベット語訳後期大乗論典のフルテクストデ-タベ-ス化が要請されている。 本年度の研究課題としては、他の研究者との共同利用をも考慮して文字コ-ド体系を統一化したうえでのフルテクストデ-タベ-スの構築にあった。チベット訳大乗論典のうちのいくつかは、米国のACIP(Asian Classic Input Project)により電子ファイル化が進められている。また、日本国内にも、関係文献の電子ファイル化を進めている研究者がある。そのような研究をも前提として、特にシナ訳資料の少ないチベット訳のみが現存する割合の多い後期唯識、後期中観論典の入力を試みた。方法は、特に後期大乗論典で既に校訂出版がなされているような論典を中心に、ロ-マ字化された校訂出版をOCR入力し、文字コ-ド体系を統一して電算機による文字列処理に対応できるようなサンスクリット語とチベット語訳の対訳的フルテクスト電子ファイル群にまとめあげることであった。その際に、他の研究者とのデ-タ交換の便宜の為の文字コ-ドの統一、重複文献入力の不合理を避けるための他の研究者との交流などに努めた。しかし、チベット語、サンスクリット語のNative Script入出力については、考慮していない。 フルテクストデ-タベ-スを利用した原典解析は今後の課題とされる。本年の課題はその前提となるテクストの電子ファイル化にあり、そのデ-タ入力と入力デ-タの校正にほとんどの研究時間と研究費とが使用された。
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