本年度の研究は、十五世紀アヴイニョン派においてフロマンを先駆ける画家アンゲラン・カルトンに関する基礎的な調査に費やされた。調査の対象となったのは、プロヴァンスでの画家の活動を跡づける十二件の一次資料であり、それらを基にして、初期の作品『ルカン祭壇画』、および『モーガン写本三五八番』(ニューヨーク、ピアポント=モーガン図書館)と『ジャン・デ・マルタンのミサ典書』(パリ、国立図書館)の二写本について、基礎的な記述を纏めることができた。この研究は、一九九〇-九一年の拙論「アンゲラン・カルトンの『聖母載冠祭壇画』(上・下)を、画家論と様式論の両面から補完するものである。 アンゲラン・カルトンについて、本研究からわれわれはとりあえず次のような結論を導きだした。すなわち、写本の画家にして祭壇画の画家、出自において「北」であると同時に精神において「南」であり、さらに、形式において中世以来の伝統を引きずっている反面、内容において近代的な精神を先駆けてもいる、要するに、媒体、地域、時代などにおいて異なる圏界を橋渡しする存在であるという意味で、まさに十五世紀プロヴァンス絵画の意義を独りで体現している、という結論がそれである。 本研究の最終年度に当たる本年十一月、昨年度に纏めたニコラ・フロマンに関する論考と併せて、二年度にわたる本研究の成果を報告書として刊行することができた。
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