昨年度の研究では、ニコラ・フロマンの描いた『ラザロの蘇生の祭壇画』(フィレンツェ、ウフィツィ美術館)の特異な「図像構想」が、作品の注文主であるイタリア人高位聖職者の意向を直接に反映していることを明らかにできた。すなわち、注文主は公会議至上主義から教皇権至上主義へ転向した教皇ビウス二世の取り巻きの一人であり、教皇が一四六一年一月に発布した大勅書「エクセクラビリス」の内容を「図像構想」に盛り込むよう画家に求めたのである。 本年度の研究は、十五世紀アヴィニョン派においてフロマンを先駆ける画家アンゲラン・カルトンに関する基礎的な調査に費やされた。調査の対象となったのは、プロヴァンスでの画家の活動を跡づける十二件の一次資料であり、それらを基にして、初期の作品『ルカン祭壇画』、および『モーガン写本三五八番』(ニューヨーク、ピアポント=モーガン図書館)と『ジャン・デ・マルタンのミサ典書』(パリ、国立図書館)の二写本について、基礎的な記述を纏めることができた。この研究は、一九九〇-九一年の拙論「アンゲラン・カルトンの『聖母戴冠祭壇画』(上・下)を、画家論・様式論的な意味で補完するものである。 本研究の最終年度に当たる本年十一月、上記二研究を研究報告書として刊行することができた。
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