時間的経過を伴って生じる変化刺激は、分岐効果を通じてわれわれにさまざまな知覚的内容をもたらす。視覚的変化刺激がいかなる形式をとって分岐し現われるかは、すべてその都度与えられる視野構造から決められてくる。通常、知覚的分岐は、運動1次成分から生じる空間的変位とその残余の2次成分から生じる恒常的事物とから成り立つと考えられる。変化刺激の分岐にあたっては、部分をまとめ相互に機能的連関をはかる関係点が必要となる。一定の関係点に基づいて構成される1つの系、“関係系"と呼ばれるべきものの確立をまって、はじめて事物に関する心的特性がととのえられるのである。 本研究では、“変化は恒常的事物と空間的変位を生み出す"との観点に立ってさまざまな事例を観察し、その内容についての考察をすすめてきた。変化刺激の知覚的分岐にあたっては、すべての部分がその変化の差をなくし、全体にわたってできる限り均等に動きが配分されるようにというプレグナンツの原理が働いている。分岐効果は、与えられる刺激に含まれる部分間の異なる変化、すなわち不安定要素を基礎において引き起こされるのである。部分同志が互に等しい運動を共有していれば、かかる体制化は起こらない。また、それらにとって、新たな体制化を引き起こす必要もない。刺激の内に含まれる微妙な変化の差が事態の不安定化をもたらし、それに基づいて新たな関係構造が形成されるのである。研究を通じて、知覚内容を構成している空間および運動の3次元的広がりは、すべて与えられる刺激構造の不安定要素に基づいて構築されてくることが示された。研究成果は、視知覚研究領域における新しい1つの展開を示唆するものである。
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