昨年度「実績報告書」で執筆中と記した「近世真宗門徒における殺生忌諱」については、目下『日本史研究』に投稿し、掲載許可を得ている。 本年度の主要な作業は真宗宗教社会史研究の前提となる、近世真宗の構成およびその特質解明に向けられた。近世真宗に関する個別論文は極めて多いが、近世真宗とは何か、いかなる構成でその特徴は何かに直接答えてくれるものでない。本年度発表の大型論文「近世真宗の構成と特質-真宗宗教社会史研究の前提-」は、以下の四つの章でこの点を論じたものである。第1章「近世真宗の編成基軸-『如来の御代官』制-」では、本願寺法主の生き仏体制を問題とし、これを「如来の御代官」制として捉え、近代真宗の編成基軸をなすものとみる。これが真宗の教団・教義をはじめ門徒の地帯性にまで及び背柱的位置を占めるものとする。第2章「真宗教団の構成と特質」は、近世真宗教団が、(イ)御主信仰、(ロ)門徒の報謝、(ロ)教団の統制の三位一体の体制をもつものとし、この体制が門徒の世修論理を教化した体制であるとする。第3章「真宗教義の構成と特質」は、近世真宗の教義が世俗倫理を色摂することによって自力と他力の統合物に転化しいてることを論証した。この自力要素が門徒に独自の禁欲のエートスを陶治するのである。第4章「門徒地帯の構成と特質」は、主要門徒地帯を(イ)北陸、(ロ)西日本、(ハ)近畿の三門徒地帯とし、そこにおける院仰の浅深と信仰組織の特徴に及ぶ。結局(イ)が信仰が最も深く、(ロ)がこれに次ぐ。両地帯には信仰の末端組細組織ともいうべき小寄溝的組織のあることを明らかにした。これに対し、(ハ)では先進的な経済発展のためか比較的早期に信仰の形式化、多神教的雑居信仰となり、小寄溝的組織も解体ないし弱化したものと思われる。真宗門徒の強固なエートスは前二者の地帯を中心に形成されるとする。
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