研究概要 |
本年度解明した主要な点は次のようである。 (1)真宗門徒の信仰と倫理について。 従来この点は妙好人伝等による妙好人の研究として進められた。しかし,妙好人伝等の記述は信仰の一点に収斂され,世俗の営為が捨象されている。従って門徒は在俗信仰者でありながら,その社会経済生活との関連が未解明であった。研究者は真宗篤信地帯の地方史誌類から家訓・遺言・村掟・講規約等を収集しこれらを総合的に解析した。その結果,真宗の教義・信仰が門徒の世俗営為を深く規制し生活の合理化が進んでいること,前期的な富を排除すると共に正当な労働の対価を獲得することに意欲的であることを知りえた。こうして開港・明治維新により西欧から資本主義のシステムが輸入されると,それらを摂取する精神的基礎が形成されつつあることを解明した。 (2)真宗門徒の移住について。 先に真宗篤信地帯においては,門徒は堕胎・間引きをせず,人口が増加することを実証した。これが彼らの勤勉なエートスと結合して出稼ぎ・行商・移住等の経済活動が活発となるのである。本年度はこのうち,(イ)寛政以降における北陸門徒の関東・東北移住,(ロ)明治以降の北海道移住,(ハ)1885年以降西日本門徒地帯からのハワイ・北米等への移民について三つの論文を作成した。彼らの移住活動は正直・勤勉・忍耐・節倹等のエートスによって質量的に高いものとなった。
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