既刊の蒙古語仏典を収集するとともに、東洋文庫等の国内研究機関を調査し、同文庫および大英博物館、コペンハ-ゲン王立図書館等に所蔵の蒙古語仏典の写本、木版本の複写資料の入手に努めた。なお、全ての蒙古語仏典を網羅的に調査検討することは時間的にも不可能なため、当該年度は特に大蔵経「般若部」、「経集部」に採録されている仏典に焦点を絞り、効率的な調査・収集を心がけた。この二部に限ったのは研究代表者の予備調査により、中期蒙古語の時代(13ー17世紀)に作成されたと目される仏典が採録されている可能性が極めて高いことが明らかとなっているからである。また、同時に梵語、西蔵語等の平行資料の入手にも努めた。入手した写本、木版本類を詳細に検討し、異本を校合して吟味し、中期に作成されたと目される仏典を特定した。その作業は現在も継続中であるが、「般若部」では『善勇猛般若経』等が、また「経集部」では『仏説宝網経』等が中期に作成された可能性が高いことが明らかになった。これらについてはいずれその詳細を公にする所存である。そこで使用されている借用形式と見なし得る形式を網羅的に整理しつつある。これらの中には従来未報告の形式も多数含まれている。作業補助者の協力を仰ぎながら、電算機処理を効果的に活用してその整理の円滑化を試みている。本研究の最終目的である中期蒙古語における言語接触の実相解明に向けた予備的作業として、研究代表者が既に手がけた蒙古後仏典において観察できる形式をもとに一編論考を公にした。今後は梵語、西蔵語等の形式と対比しつつ、当該年度の研究で新たに発見された形式の来源を推定し、そこから窺われる中期蒙古語における言語接触の実相を解明する作業に着手したいと考えている。
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