社会資本が、どれだけ民間産業部門の生産や生産性に影響を及ぼしているのか、といった実証研究は、日本ではほとんど行なわれてこなかった。本研究の第1の目的は、そのような空白を埋めることを目差している。この一年で得られた結果は下記の通りである。 1)日本の製造業部門についての「規模に関する収穫」は、社会資本も含めた全投入物に関しては、1.10であり、民間投入物に関するそれは、0.72であった。このことは、社会資本の生産に関する弾力性が0.38となり、社会資本(特に産業基盤としての)は、生産に重大な影響を与えていることがわかる。また、全投入物に関する規模の収穫は、統計的に1と見なすことができ、このことは、社会資本を含めて、生産関数が一次同次である、と仮定することができることを意味している。さらに、このことは、資会資本の十分な増加なしには、民間資本の増大だけでは、生産は増加しないことも意味している。すなわち、社会資本が不十分であれば、ボトルネックが発生する可能性を示めしている。 2)民間産業部門でも1)と同様の結果が与られた。 3)限界便益で計測した場合、1980年代には、資会資本は量的に、民間資本と比較して十分な規模となっている。 以上の実証研究より、日本に関して言えば、社会資本を含む生産関数を、すべての投入物に関して一次同次関数である、と仮定できることが示めされている。実際、第2の目的である、社会資本の最適経路の理論的研究では、生産関数が、社会資本も含めて一次同次であるという仮定が有効に使われて、最適社会資本のタ-ンパイク定理が証明される。以上の研究では、社会資本として、産業基盤のそれを中心として研究されたが、近年重大な関心事となっている、生活関連の社会資本も含めたモデル分析を、さらに進める必要があるように思われる。
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