本研究における成果の概要は次のとおりである。 1.人口構造の高齢化に伴う負担増は拠出者・受給者・国が等分に引き受けるというルールを確立し、年金給付のスライド方式を税・社会保険料込みのグロス賃金スライドから、それらを除くネット賃金スライドへ切りかえるべきである。1994年3月に国会に上程された年金改正法案は、この切りかえを明記しており、画期的である。 2.支給開始年齢の調整に際しては、退職の選択において各人の自由をできるかぎり尊重する一方、賃金収入がなくなっても安心して暮らせるように配慮すべきである。今回の改正案は、このような趣旨からみると、おおむね妥当であるといえよう。ただし女子等の低賃金労働者や短時間勤務の者が相対的に割りをくうことになりそうである。またメリット保険料の採用も見送られたので、高齢者雇用促進のためのインセンティプは必ずしも強くない。 3.ボーナス保険料の導入は総報酬制に道を開くものであり、評価できる。ただし年金保険料の毎年小刻み引上げは厚生年金においては提案されなかった。5年ごとの一気引上げは実質増税のマイナス面をその分だけ大きくしてしまう。政府全体としての景気対策の整合性が求められよう。 4.年金は医療・福祉・介護・雇用・出産・子育て・税制・都市づくり・住宅政策等との連携を密にし、政策体系全体としての整合性を今後もっと高める余地が少なくない。
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