本研究は、角運動量量子論で知られるウィグナー・カラー代数を、数年来発展を続けている群論の拡張としての量子群を基として、基本的なところから拡張・一般化することを目的としている。原子核モデルの拡張等で当理論の適用も視野に置いている。 先年度からの研究で、課題についての数々の新知見がえられ、課題への攻略方法も定着した。理論全体を、非可換座標系における或る種の一次変換に関する共変形式して体系化し、種々の物理量を拡張された意味でのスカラー、ベクトル、あるいはテンソルとして規定することが自然な形で出来るようにした。これは、通常の方法、即ち量子群の表現理論を非線形問題からのアプローチを基にしたもの、と対比される。 通常の量子群の方法では、物理量が非線形に表されるので、座標系変換による共変性は全く議論されていない。昨年度は、この新しい共変形式のもとで、フェルミオン・ボソンの生成消滅演算子の自然な拡張を見いだし新たな生成消滅演算子とその交換関係を規定した。拡張されたハートレー・フォク的な共変性とBCS・ボゴリューボブ的な共変性の二種を定式化した。今年度は、これらsuq(2)での成果をさらに深化させるとともに、理論をsuq(n)へと拡張した。通常の方法では、量子群のテンソル積は粒子の交換に対し非対称な形をしているが、新しい共変形式では見かけの上で対称な形に表わせることをきちんと示すこともできた。 研究初年度に購入したパソコンとプリンターは、初年度においては常識をつけながら慣れ親しむ段階であったが、今年度は研究課題での計算プログラム開発にまた論文の作成にと活用できるようになった。また、研究成果発表と討論を通して、研究課題の現状と問題点を再考する機会を得た。
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