研究概要 |
近年、わが国においても酸性度の高い霧が観測されるようになり、それの生態系への影響も危惧される状況にある。本研究は特に酸性霧の発生機構を究明することを目的とし、1991年の梅雨期と盛夏期の2回、乗鞍岳で霧の化学組成に関する観測を実施した。観測では、従来の細線式雲水採集器に加えて、新たに設計・製作した多段式の細胞式霧水採集器を用い、霧水のバルク及び粒径別の化学組成を調べた。また、霧の発生前後には、SO_2,HNO_3,HCIガス濃度を測定すると共に、エアロゾル粒子の化学組成も調べた。その結果、これまでに次の結果が見出された: (1)霧水のpHは空気塊の風向、霧の消長段階、霧水量などによって大きく異なり、最高値は5.71,最低値は3.30であった。 (2)粒径別に3段階(モ-ド直径:3.6μm,5.2μm,20μm)に分けて採集した霧水のpHは一般に粒径が小さいもの程低いことが見出され、最低pH値は3.03であった。 (3)霧水の化学組成も粒径によって大きく異なり、粒径の小さい霧水程各成分の濃度は、一般に高かった。 (4)霧発生前のエアロゾルの化学組成から、エアロゾルはほぼ中和していることが見出された。この結果から、小さい粒径の霧水のpH低下は直接エアロゾルの組成の影響によるものでないと推察される。 (5)Na^+を指標として、霧水の化学組成からエアロゾルの溶存成分を差し引いた結果、剰余のSO_4^<-->とNO_3^-が含まれている例がしばしば見出された。 この結果は霧の形成段階におけるHNO_3の活発な溶け込み、さらに霧の成長段階でSO_2のH_2O_2^-によるSO_4^<-->への液相酸化が霧水の酸性化に大変重要であることを示唆している。
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