鋳型として下地の基盤にf.c.c構造のRh(001)単結晶表面を用い、エピタキシャル成長によって人工的に創製されるf.c.c構造の鉄薄膜の表面状態を変えることなく、その表面電子状態を測定するために、ヘリウムガスの精製ができる導入システムとターボ分子ポンプを採用したコンパクトでクリーンな差動排気系をもつ真空紫外光源を製作した。放電部と差動排気部に用いるキャピラリーの中心軸が一致するような加工によって、光強度の増大と安定した放電を実現し、迅速に繰り返し測定ができるようになった。 Rh(001)単結晶表面に成長するf.c.c.構造の鉄薄膜の反応性を水素の吸着と吸着した水素原子と不飽和炭化水素であるエチレンとの表面反応によって調べた。b.c.c.構造の鉄単結晶表面における水素の脱離温度400K付近であるのに対して、f.c.c.構造の鉄薄膜では、一層目で特異的に水素の吸着エネルギーが著しく減少し、200Kもの低温で脱離が始まる。二層目以上では次第に脱離温度が300Kに漸近して付着確率は小さくなる。この結果は、Cu(001)表面に成長するf.c.c.構造の鉄薄膜における水素の吸着状態に類似しており、f.c.c.構造の鉄薄膜に特有なものであることが解った。また、吸着した水素とエチレンとの反応では、エタンは生成しないものの、エチレンの脱離ピークが120Kと200K以上の二つに現れ、後者はエチレンが半水素化されたエチル中間体が再び脱水素化してできたものである。このエチル中間体の安定性や反応性も水素の吸着状態と同じように一層ごとに変化することが明らかになった。 そこで、原子や分子と表面原子との相互作用において重要となるフェルミ準位近傍の電子状態密度を調べ、表面の活性化を明かにするために、真空紫外光電子分光法を行った。Rh(001)単結晶表面の光電子分光には、フェルミ準位以下3eVまでに鋭いdバンドの電子状態を観測した。Rh(001)単結晶表面にできるf.c.c.構造の鉄薄膜について一層ごとに変化する電子状態を調べた結果、表面に対して垂直方向に飛び出す電子のエネルギー分析では、一層目では、フェルミ準位の電子状態は減少し、全体に結合エネルギーの小さい方へシフトしている。二層目以上では鉄の層の厚みとともにフェルミ準位の電子状態と1.5と3eVにピークが現れ、表面構造が変化する8層ではさらにフェルミ準位の電子状態の構造がブロードになることがわかった。これらの結果から、表面の反応性や構造の変化は表面電子状態の変動によく対応していることが明かとなった。
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