本研究計画2年度目において行った研究の概要は以下の通りである。 [I]生成イオンの質量分析とイオン生成機構 本研究補助金により初年度に購入した真空分析計(日電アネルバ、AQA100MPX)をこの研究目的に用いた。この結果、以下の事が明かとなった。超音速法によって加速された有機分子が固体表面上でイオン化される場合、(1)イオン化効率は主として有機分子の運動エネルギーが支配しているが、(2)固体表面の性質(特にその仕事関数、φ)とその温度の影響をもある程度受けていることが判った。また、(3)運動エネルギーにしきい値が認められ、これは有機分子のイオン化エネルギー(IE)と固体表面の仕事関数との差φ-IEに近い値であった。さらに、(4)固体表面上では正イオン化だけでなく、有機分子の解離反応、分子間水素転移反応等の化学的過程をも含む事が明かとなった。また、(5)ピペリジン等のようなイオン化エネルギーの小さい有機分子のみならず、ベンゼン、トルエン、キシレンのような高いイオン化エネルギーを持つ炭化水素類についても、高いイオン化効率で正イオン化できることが明かとなった。ただし、これらの分子のイオン化効率は固体表面の状態の影響を受け、イオン化能の経時劣下が認められ、今後に課題を残した。 [II]ガスクロマトグラフィー用イオン化検出器の試作 イオン化検出器を2個試作し、ガスクロマトグラフ装置(島津、GC-14APF)に実際に装着してガスクロマトグラフを描かせた。第1の検出器は保温機構などに問題があって、満足な結果が得られなかった。第2の検出器は、2・3の改良を加え、水素炎イオン化検出器(FID)の保温機構をそのまま利用した。これを用いてベンゼン、トルエン、シクロヘキサン等のイオン化エネルギーの高い炭化水素類のガスクロマトグラフを得た。検出感度、ピークのテーリング等に今後の検討課題を残した。
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