超音速自由噴流法によって加速された有機分子が、加熱された固体表面と衡突し、エネルギー移動を行って正イオンを生成する現象について平成3〜5年度にわたって研究を行った。初年度は、[1]超音速法による分子加速に関する最適実験条件の探索と実験装置の建設、第2年度は、[2]生成イオンの質量分析とイオン生成機構の研究、第3年度は、[3]ガスクロマトグラフィー検出器への応用研究、を主として行った。 [1]超音速法による分子加速に関する最適実験条件の探索と実験装置の建設: (1)超音速ノズルの材質、孔径、ノズル温度、ノズル背圧、について本研究目的に最適な条件の探索を行った。 (2)真空系:質量分析装置及びガスクロマトグラフィー検出器に本イオン化原理を適用するために必要な真空排気系の計算・設計、及び真空装置の建設を行った。 [2]生成イオンの質量分析とイオン生成機構の研究: 運動エネルギーを持つ有機分子が、加熱固体表面と衡突してイオン化される場合、イオン化効率は(1)運動エネルギーについて指数関数的に増大し、(2)固体表面温度、(3)固体表面の仕事関数(φ)の影響をもある程度受ける。(4)運動エネルギーにしきい値があり、これは、有機分子のイオン化エネルギーをIEとするとφ-IEの値にほぼ等しい。(5)分子の正イオン化だけでなく、分子の解離、水素転移などのやや複雑な化学過程を含む、などが明らかとなった。 [3]ガスクロマトグラフィー検出器への応用研究: 本イオン化原理に基づく検出器を試作し、その性能を市販FID検出器との比較によって評価した。(1)検出感度は、酸化レニウム固体表面の場合FID法の約100倍高い、(2)直鎖状炭化水素、アルコール等のイオン化エネルギーの高い有機化合物に対しても高い検出感度を示す、(3)メタノール等の低分子量化合物に対しても高い検出感度を示す、(4)ノイズレベルはFID検出器とほぼ同程度である、(5)ピーク幅もFID検出器とほぼ同程度である、等の優れた性能を持つことがわかった。一方、(6)有機化合物間に検出感度の差が認められ、この差はFID法より大きい、(7)バックグラウンドレベルは長時間の間にドリフトする、(8)固体表面温度に最適条件が存在し、この最適温度は試料有機化合物間で差がある、(9)検出感度を上げるためにノズル温度を上げるとノイズレベルも増大する、(10)ダイナミックレンジはFID法と比較するとやや小さい、等の事も明らかとなった。
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