研究概要 |
Na[Cr_2(dーtart_2H)(phen)_2]ーH_2O系の液晶形成に関して,光学的性質および溶液物性を検討した.偏光顕微鏡観察から,20℃,0.006M以上で複屈折性を示し,リオトロピック液晶を形成することが明らかになった.モザイク模様の液晶組織がスメクチック相を示唆した.複屈折性は低濃度にしては異常に高い粘性と共に現われ,0.06M以上では室温で流動性を持たず錯イオンの高次の集合を示唆する.液晶膜の円二色性(CD)は400nm以下で,膜の場所が異なるとCDピ-クの波長,符号,強度が劇的に変化し,Δεが300以上の場合もある.これは光の波長に近いピッチを持つ螺旋構造による選択反射と無秩序なドメインの配向で説明される.以上の事実から,本系はキラルスメクチック構造のリオトロピック液晶であると推定される.次に,液晶構造を明らかにするため,類似錯体H[Cr_2(dーtart_2H)(bpy)_2]の単結晶X線構造解析結果を検討した.錯イオンの両端にあるbpy環はその両面を使い頭尾で広範なスタッキングをして単分子層を形成しており,その結果,親水性となった層が結晶水で隔てられたラメラ構造を形成している.ところで,phen錯体は低濃度(0.005M以下)で難溶であり,その上で溶解して液晶を形成する.これはbpy結晶で見られた層構造はphen錯体の液晶中でも保持されていることを支持し,上記で推定したキラルスメクチック構造と相容れる.このように錯体として始めてのリオトロピック液晶を見出し,更にその構造はサ-モトロピックを含めても例のない新型であることを明らかに出来た.相当したdlーおよびmesoーtart錯体は液晶を形成せず,dーtart錯体の特微的バッキングによる液晶形成を支持する.本研究の発端となったNa_2[Sb_2(dーtart)_2]の液晶形成について偏光顕微鏡の観察では液晶の証拠は得られなかった。今後,この点をCDを中心とする別の手段で解明すると共に当初計画した光学分割実験を行なう予定である。
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