研究概要 |
本研究テ-マは,異なる酸化還元電位を持つポルフィリンを有機溶媒という人工膜を隔てて配置したモデル系を構築することによって,膜を介在して電子供与体と電子受容体の間で電子伝達がどのように起こっているかを明らかにすることである.まずポルフィリン環の周囲置換基を変えた7種類のヘミンを合成し,それぞれの酸化還元電位をCV法で決定した.上記の種々のポルフィリンについて,ポルフィリン間の電子の授受を調べる前に,Na金属とポルフィリンの間での環元過程を,吸収と共鳴ラマンスペクトルの測定を行って調べた.10^<-5>torr程度の真空下で,ポルフィリンを充分に脱ガス,脱水したTHF溶媒に溶かし,蒸着したNaミラ-に接触させ,その接触時間を変えることで還元レベルをコントロ-ルした.3段階目の還元状態はその可視紫外吸収スペクトルがチトクロムPー450の一酸化炭素化型とよく似て,365nmと445nmに吸収極大を持つ点で興味ぶかい.そこで本研究経費の設備備品費で購入したHe/Cdレ-ザ(441.6nmの発振)で共鳴ラマンスペクトルを測定した.その結果,この還元レベルでは,少なくともポルフィリン環が還元されたパイオニオンラジカルが生じていることが明らかになり,チトクロムPー450の酵素反応機構について重要な知見をもたらした.一方,7種類の合成ヘミンをミオグロビンの蛋白質に埋め込み共鳴ラマンや赤外領域の円偏光2色性スペクトルを測定することで,蛋白質とポルフィリン,配位子とポルフィリン間の弱い相互作用が蛋白質の機能に密接に関連していることを明らかにした.今後これらのデ-タを基にポルフィリン間の高次の情報伝達機構を研究していく.
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