主として鹿児島市内および鹿児島県吹上町に産するタケツノアブラムシを材料にして、これまで世界に研究例のなかったアブラムシにおける不妊の防衛カスト(兵隊アブラムシ)産出にかかわる要因、および兵隊率と天敵の死亡率の関係の野外調査を行なった。その結果、兵隊型幼虫は秋から冬の間に産出されること、形成直後の小型のコロニ-では産出されず、コロニ-が大型になるにつれ兵隊率が増加するが、コロニ-個体数の20%以下で安定することがわかった。これはコロニ-形成初期には防衛の必要は少なく妊性のある子のみを産んで急速に増加する方が親の適応度にとって有利であるが、コロニ-が増加するにつれ天敵が集中してきた場合は兵隊を産出する方が有利であり、さらに数千匹以上の大コロニ-においてはコロニ-防衛のため充分な数の兵隊がいるため兵隊産出率は低下するためであろうと考え、モデルを作製した。野外で兵隊率を変えて天敵ヒラタアブ幼虫を放し、その生存率をしらべたところ、兵隊の多いコロニ-での生存率は低く、兵隊の防衛効果が野外で始めて示された。なお寄主のホウライチクの新芽は9月にしか出ないとされていたが、10〜12月にも出ること、タケツノアブラムシはつぎつぎとこれらの新芽を見出して増殖していることがわかった。室内でケ-ジを用いた飼育によって、本種のメス成虫は正常型、兵隊型の両方を産むこと、ただし兵隊型を産みはじめるとしばらくそれを続けることがあきらかとなった。同様な調査を沖縄のタケツノアブラムシについても行なったが、兵隊産出率の変動は鹿児島と似ているように思われた。また同じく不妊の防衛カストを持つ沖縄のコウシュンタケツノアブラムシの飼育も行ない、本種のメスも1匹が両型を産めることがわかった。
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