研究概要 |
平成3年度の鹿児島県下における野外研究で,不妊の防衛カストを有するタケツノアブラムシの防衛型1齢幼虫の産出率は,秋・冬に高く春・夏には殆ど産出しないこと,またコロニー中の防衛型1齢幼虫の率はコロニーサイズや竹の新茎の長さと相関していることがわかった。 そこで平成4年度はよりくわしい野外調査を行ない,その結果を重回帰分析した。また鹿児島県下において兵隊型1齢幼虫が有力な捕食者タイワンオオヒラタアブに対し真に防衛能力を有するか否かを,放飼実験および野外観察で調査した。さらに同一の母虫が兵隊型・通常型両方の幼虫を産むか否か,産むとしたらその順序はどうかを,名古屋大学内での飼育によりしらべた。その結果明らかになったことは次の通り: 1.タケツノアブラムシのコロニー中の兵隊型個体の率は竹の長さ,コロニーサイズ,有翅虫率との間に正の相関があった。ただし竹の茎長が4mを越すと兵隊率は約25%で頭打ちとなった。 2.重相関分析によりコロニー中に生存しているオオヒラタアブ幼虫数が負の相関を示す変数として選択されたが,これは次項とも関連して兵隊率変動の原因ではなく,逆に兵隊率の高いコロニーではオオヒラタアブ幼虫が殺されるためであると考えられた。 3.有意とはならなかったが,兵隊率の高い集団では捕食者オオヒラタアブ幼虫の生存率が低下していた。またオオヒラタアブ成虫は兵隊率の高い集団をさけて産卵していた。 4.コウシュンツノアブラムシは最初何匹かの普通型幼虫を産み,ついで何匹かの兵隊を産み,最後にまた普通型を産んで死ぬことがわかった。タケツノアブラムシも同様らしい。これは他の真社会性昆虫の不妊カスト(ワーカー)産出の順序と全く逆であり,兵隊カストの進化を考えるうえで重要な新発見である。
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