細胞壁キシログルカンの「繋ぎ替え反応」を触媒する新規酵素を植物細胞壁中、すなわちアポプラストより単離精製し、その酵素反応機構を解析することにより、その生理作用を解明しようとするのが本研究の目的であった。この目的は十分に達成され、以下のような研究成果が得られた。 蛍光標識をしたキシログルカンオリゴ糖を基質に用い、キシログルカン分子鎖間の転移反応を検出する新しい方法を確立し、この方法を用いて、アズキ上胚軸アポプラスト液からキシログルカン転移酵素を単離精製することに成功した。この酵素は分子量約33000の糖タンパク質で、キシログルカン鎖中の特定の側鎖構造を認識し、キシログルカン主鎖をエンド型の様式で切断したのち、その切断片の還元末端を他のキシログルカン分子鎖の非還元末端の4位に転移する。この転移反応により、キシログルカン分子鎖が繋ぎ替えられることになる。この酵素反応にはアクセプター基質およびドナー基質として、キシログルカンの基本構造が必要であることから、この酵素はキシログルカンに特異的なエンド型の糖転移酵素であることが明かとなった。以上の知見に基づいて、この新規酵素をエンド型キシログルカン転移酵素と命名した。この酵素は多糖分子鎖を繋ぎ替える酵素としてはじめて単離された酵素である。また、細胞壁マトリックス中でのこの酵素の反応を蛍光標識基質を用いて糖質化学的手法により解析した結果、この酵素は細胞壁中でキシログルカン鎖の繋ぎ替えを実際に触媒することが明かとなった。 本研究により植物細胞壁マトリックスの構築と再編成に関与する転移酵素の存在とその生理機能が初めて実証されたことになり、植物の細胞成長の分子機構の全容の解明の糸口となるものと思われる。
|