平成3年〜5年度に交付された科学研究費により、細胞ならびに器官培養系を用いて硬骨魚類の精子分化過程を明らかにしようとし、以下の成果を得た。1)培養下において単離された第1精母細胞の分化過程をTEMを用いて観察した結果、全ての過程が正常に進行していることが明らかになった。2)培養下で形成された精子が受精能を持つことが間接的に証明されたが、直接的証明を行うためにBrdUで第1精母細胞を標識し、その分化過程を追跡した。その結果、BrdUで標識された精子を光学顕微鏡ならびにSEMにより確認することができ、この精子を用いた媒精実験により直接的証明を行える見通しがついた。3)精子形成の制御機構におけるホルモン役割を検討した結果、hCG、11-ケトテストステロン、エストラヂオール-17βは精原細胞の増殖を開始させることが明らかになった。4)精子形成過程の解析を分子レベルで行うために、メダカ精巣cDNAライブラリーを作製し、我々の作製した抗メダカプロタミン抗体でスクリーニングを行った結果、多数のポジティブクローン得ることに成功した。その中からクローンMP-1選びその塩基配列について決定を試みた。その結果、MP-1は以下のように31のアミノ残基から成り(M-RR---QASLPA-RRRRR-VRRTR-VV-RRRRR-VC-RRR-H)、その分子内に58.1%ものアルギニンを含む強塩基性蛋白質であることが明らかになった。魚類プロタミンとホモロジー検索を行った結果、マグロのプロタミンであるチニンZ1と高い相同性(アミノ酸残基で71%相同)が認められた。この様にしてMP-1はメダカプロタミンのcDNAであることが示された。また、ノザンハイブリダイゼーションにより、各種組織での発現状況を調べたところ、メダカプロタミン遺伝子は精巣特異的に発現していた。
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